2019年1月1日、テニス世界ランキングにおけるポイント算出方法が激変した。男子女子合わせて3000人近くいたATP/WTAツアーに参戦しているプロテニスプレイヤーは1500人に半減した。なぜこの構造改革が必要だったのか?どう変わるのか?日本の若手プレイヤーにはどう影響するのか?など調べて整理しました。
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目次
なぜATPポイント改正が必要だったのか?
生計を立てられるのはたった750人
ATPツアーに参戦している男子プロテニスプレイヤーは2018年に約2000人いました。
プロテニスプレイヤーだから当然テニスで勝ってその賞金で生計を立てる必要があります。
スポンサーが付けばまだ良いですが、ランキング下部の選手にはそれもないです。
でも世界の頂点を目指すなら、世界各地のATPツアーに参戦してATPポイントを稼がなければなりません。
帯同するコーチなどの費用など含めると当然個人レベルではどうにもなりません。
そこで生まれてくるのが「八百長」です。
昨年も錦織の練習相手をしたアルゼンチンの選手が、ツアー下部大会で八百長を行い出場停止処分を受けましたが、氷山の一角にすぎないとも言われています。
この多発する八百長問題を解決し、テニス界を健全化するためには下部ツアーの選手にもきちんと稼がせてあげなければならなかったのです。
トッププレイヤーの高齢化
現在、ATPツアーのトップ10選手のうち7人が30歳を超えています。
以前ならば、トップ10に一人いるかいないかどころか、20年前なら30歳超えの現役選手はトップ100の中に7人しかいませんでした(現在はトップ100の中に34人)
高齢化が進めば、その分若手選手が活躍できる(ATPポイントを取得できる)場所が限られてくるのは必然ですよね。
グランドスラム大会であっても、本戦は128人しか戦う事ができませんので、よほど実力のある若手プレイヤーでなければウィンブルドンは夢のまた夢です。
大きな大会の予選に抽選で参加できれば、ATPポイントを稼げる可能性もあるので無理してでも移動する選手もいると聞いた事があります。
そこまで無理させてATPポイントの取得争いをさせるなら、いっそ「2つに分けてしまえ」と言うのが今回の構造改革の柱でもあります。
賞金の高額化
ATPツアーの国際大会では賞金の高額化の問題もあります。
賞金を高額化しないとトッププレイヤーが参戦してくれない為、次第に高額化してしまいました。
必然的に賞金総額は膨れ上がり、主催者としても運営が厳しく消滅、または格下げを余儀なくされた大会もあります。
30年前のインディアンウェルズの賞金総額は$510,000(当時の為替で約6千5百万円)、それが2019年は当時の20倍近い$9,314,875(現在の為替で10億円超!)。
これに引きずられて下部大会でも一部の15K(賞金総額$15,000)の大会が25K(賞金総額$25,000)に引き上げれました。
賞金があがるなら良いんじゃない?
そう思いますが、ATPツアーで生計を立てるのが厳しい200位~600位前後の選手がATPポイントの取得と賞金を確保する為にフューチャーズの大会に降りてくる事になりますので、更に下位の選手にとっては厳しいものになります。
現に2018年の日本国内のフューチャーズ大会には、伊藤竜馬選手や綿貫陽介選手なども参戦していますからね。
2019年ATPポイントはどう変わる?
では、2019年から具体的にどう変わるのか?
そもそもATP(男子プロテニス協会)主催のテニスツアーとITF(国際テニス協会)主催のテニスツアーは異なります。
ATP主催
・ATPファイナルズ
・ATPマスターズ1000
・ATPワールドツアー500
・ATPワールドツアー250
・ATPチャレンジャーツアー
ITF主催
・グランドスラム(男女)
・デビスカップ(女子:フェデレーションカップ)
・ITFプロサーキット(男女)※フューチャーズ
・ITFジュニアサーキット(男女)
運営母体が違うものの、グランドスラムとITFプロサーキットでもATPポイントの対象となっていました。
今回の構造改革のポイントは、ATPツアーからのITFプロサーキット(フューチャーズ大会)の分離です。
そして、この分離は2020年までに段階的に行なわれる予定です。
また、2019年より「ITFプロサーキット(フューチャーズ15K、25K)」は、「ITFワールドテニスツアー(15K、25K)」に改名されました。
※この後の説明では慣れ親しんだ古い名前で書いてます。
※ツアーの位置づけとして「ITFトランジション(移行)ツアー」と呼ばれる事もあります。
2018までのATPランキング
2018年までの構造です。
ITFフューチャーズでも初戦を勝てばATPポイントが取得できました。
カテゴリー | W | F | SF | QF | R16 | R32 |
$25,000+H | 35 | 20 | 10 | 4 | 1 | 0 |
$25,000 | 27 | 15 | 8 | 3 | 1 | 0 |
$15,000+H | 27 | 15 | 8 | 3 | 1 | 0 |
$15,000 | 18 | 10 | 6 | 2 | 1 | 0 |
2019年の構造改革でこうなった
2019年ではITFフューチャーズ大会(15K:賞金総額$15,000)が分離され、ITFワールドテニスツアー(15K)と改名されると共に、ATPポイントが取得できなくなります。
代わりにITFエントリーポイントと言う、独自のポイントが付与されランキングが競われます。
カテゴリー | W | F | SF | QF | R16 | R32 |
$15,000+H | 150 | 90 | 45 | 18 | 6 | 0 |
$15,000 | 100 | 60 | 30 | 12 | 4 | 0 |
過渡期の救済処置として、ITFフューチャーズ(25K)改めITFワールドテニスツアー(25K)では準決勝以上への進出者には、ITFエントリーポイントの他にATPポイントも取得する事ができます。
カテゴリー | W | F | SF | QF | R16 | R32 |
$25,000+H | 5 | 3 | 1 | |||
225 | 135 | 67 | 27 | 9 | 0 | |
$25,000 | 3 | 1 | ||||
150 | 90 | 45 | 18 | 6 | 0 |
※上段がATPポイントです。
更に、ATPチャレンジャーでも以下の措置が取られます。
・カテゴリーと賞金配分の見直し
・予選出場者へのITFエントリーポイントの付与
・150〜300位のシングルプレイヤーと75〜150位のダブルスプレイヤーに渡航費用の援助
2020年で完全分離
2020年には、ITFワールドテニスツアー(25K)もATPツアーから切り離され、ATPポイントの取得ができなくなります。
2018年12月末、それまで保持していたITFフューチャーズ(25K)以下の大会で取得したATPポイントが消滅しています(該当者本人には事前通知しているとの事)
この措置で2019年1月1日時点のATPポイント(シングルス)保持者は、なんと2046人から679人に激減しています。
思い切りましたね・・・
これを受けて、ATPランキングを保持していた日本人選手は67人からたったの24人に減ってました。
2019年1月1日付のATPランキング保持者(日本人)
Ranking | Player | Age | Points |
9 | Kei Nishikori | 29 | 3590 |
75 | Yoshihito Nishioka | 23 | 701 |
77 | Taro Daniel | 25 | 691 |
145 | Yuichi Sugita | 30 | 370 |
148 | Tatsuma Ito | 30 | 360 |
185 | Yasutaka Uchiyama | 26 | 275 |
191 | Hiroki Moriya | 28 | 268 |
194 | Yosuke Watanuki | 20 | 263 |
214 | Go Soeda | 34 | 231 |
282 | Kaichi Uchida | 24 | 137 |
326 | Yusuke Takahashi | 21 | 78 |
337 | Renta Tokuda | 20 | 68 |
358 | Makoto Ochi | 22 | 57 |
396 | Shuichi Sekiguchi | 27 | 35 |
487 | Yuta Shimizu | 19 | 13 |
505T | Hiroyasu Ehara | 27 | 11 |
545T | Shinji Hazawa | 19 | 7 |
564T | Yuya Kibi | 32 | 6 |
597T | Takashi Saito | 23 | 3 |
601T | Yuki Mochizuki | 21 | 3 |
618T | Jumpei Yamasaki | 21 | 3 |
647T | Rio Noguchi | 20 | 1 |
653T | Sora Fukuda | 21 | 1 |
657T | Shintaro Imai | 25 | 1 |
ATPポイントの多くをITFフューチャーズ(15K)等で稼いできた慶応大学(2018年4月卒業しプロ転向)の上杉海斗選手などはATPポイントが0になり、ATPランキングから姿を消してしまいましたね。
今回の構造改革で若手選手はどうなる?
「新しい世界規模のトーナメント構造は、ジュニアとシニアのゲーム間の移行の問題を解決し、より多くのプロ選手が生計を立てるのに役立ちます(ITF会長、David Haggerty氏)」
ATP・ITFの説明文を見ると、今回の構造改革で下位の若手選手により良い道筋を立てる事ができるようになると書かれていますが、本当にそうなのでしょうか?
・ATPランキング選手とITFランキング選手を明確に分けることにより、適正な人数で賞金を確保できる様になる。
・ATP500、マスターズの予選、本戦1、2Rの賞金が上げる事で生計を立てられる様にする。
・チャレンジャー大会参戦者への渡航費用援助を行う(ランキングによる)
・ATPポイントを取得するために海外を転戦する必要を抑える。
・選手、およびトーナメント主催者のコストを抑える事により、より多くの機会を得ることができる様になる。
・ITFランキング上位の選手に対しチャレンジャー大会の本戦4枠、予選3枠を確保する。
読み取れた施策をざっと書きましたが、私が見る限り以下の点で?を感じました。
・各国の下部トーナメントが増える事を期待しているが、スポンサー(企業など)が付かなければトーナメントは増えないはず。
・日本国内で開催されるITFワールドテニスツアー8大会の内、6大会がATPポイントの付かないトランジション大会なので、海外選手の参加も減るのではないか?
・日本国内でITFランキングを上げても、海外の選手との試合機会が減ればチャレンジャー、ATPツアーに出て行った時に戦えないのでは?
ATP・ITFの思惑通りに行くかどうか?もうしばらく様子をみる必要がありそうですね。
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2019年ATPポイント改正まとめ
改めて、今回の施策について箇条書きにします。
2019年1月からATPポイント取得体系が刷新され、フューチャーズ15Kで得たATPポイントは消滅した。
これによりATPランキング保持者は約3分の1の679人に激減した。
ITFプロサーキットはITFワールドテニスツアーに改名。
1TFワールドテニスツアー15ではATPポイントを取得できなくなった。
2020年にはITFワールドテニスツアー25もATPから除外される。
その他ATPワールドツアー、チャレンジャーでも下位ランクの選手が生計を立てられる様に賞金配分などの見直しを行なった。
全ての施策は、下部ツアーでも生計を立てられる様にして、ジュニアからATPツアープロまでの適切な道筋を作る事を目的にしている。
日本人テニスプレイヤーにとって、海外の強豪選手と試合経験を積む事が重要と思いますが、今回のATP構造改革でその機会が減らない事を祈るばかりです。
逆に、錦織圭、大坂なおみに続く日本のライジングスターがウヨウヨと沸いて出て来てくれる事を期待してます!
※本記事の内容は、ATP・ITF公式サイトの発表文、公式ルールブックなどを読んで私なりに解釈して記述しています。 間違った事を書かないように何度も読み返しましたが、もしかしたら解釈が違っている事もあるかもしれません^^; ん?と思ったら、ATP、ITF公式サイトでご確認をお願いします。